Kesto (Disc1 & Disc2)
... 2007.05.13.[Sun]

■Artist : Pan Sonic
■Title : Kesto Disc1&Disc2)
■Label : Mute Records
■Release : 2004
■Sample : ♪
フィンランドが誇る最凶の電子音響テクノイズユニットPan Sonicの新作が3年振りにリリースされる。Pan Sonicはフィンランド出身のMika VainioとIlpo Väisänenにより1993年に結成されたユニットであり活動初期からウルトラミニマルな作品群でJeff MillsやBasic Channel、Mike Ink、Richie Hawtinといったミニマリストとは違ったサウンド/手法を実践し(美術館やアートスペースに於けるサウンド・インスタレーション等も多数行なう)、テクノ・ミニマリズムの新たな地平を切り開いたユニットでもある。
彼らのサウンドは一切の装飾を排し極限までにシェイプアップされたストイックなミニマル・トラックとノイズ、インダストリアルからアンビエント、ドローンといった時にフロアでの機能性から大きく逸脱したような実験的な音響アプローチを施した楽曲が特徴であり、先述したように彼らのライブ・パフォーマンスはダンスフロアだけに留まらず美術館でのインスタレーションといった狭義の意味での“テクノ・ミュージック”といった枠組みを打ち破るような幅広い活動を行なっている。
さて、前置きが長くなったが今作はリリース間近のニューアルバムの前作にあたる『Kesto』である。
何と言っても特筆すべきはこの作品が4枚組、およそ234分にも及ぶ超大作だということだろう。各ディスクに50分から70分という、正に1枚1枚がフルアルバムに相当するであろうヴォリュームの楽曲が収録されているという驚異的な内容の作品である。またそれぞれのディスクにはジャケット・アートワークが付随しており、これまでにそのサウンド同様一貫したミニマリズムを作品のアートワークに於いても展開していた彼らにとってこれらの様な写真を用いたジャケットは非常に珍しい。
(※収録時間が長い為今回の記事はDisc1&2そしてDisc3&4と2度に分けて紹介させて頂きます。)
Disc1冒頭はまず強烈なギターノイズの歪みまくった音の中それらに叩き潰されたような拉げたビートが淡々と打ちつける非常に緊張感と圧迫感に満ちた、幕開けを飾るに相応しい強烈な1曲である。
Disc1にはこれに代表されるようなまるで脳みそに直接高圧電流を流されるようなノイジーで刺激的な曲が多く、中にはかつてのデジタル・ハードコアを思わせるようなヘヴィなギターノイズが炸裂する#6“Rähinä II”のような曲もある。因みに“Rähinä”は英訳でMayhem(=破壊、混乱)を意味するものであり#1が“Rähinä 1”であり#6が“Rähinä II”、そして#10が“Rähinä III ”となっており、いずれもそのタイトルが示す通り暴力的なまでに荒れ狂うノイズに対してタイトに撃ちつけるビートがその中で僅かながら“楽曲”としての均衡を唯一保っているかのように感じられる作品である。
全てを聴き通せば分かるのだが、これら4枚にはそれぞれ朧ろ気ながら色分けやテーマ性のようなものが存在しておりそれらに沿ってアルバム毎のサウンドには様々な差異を持たせてある。
続くDisc2ではDisc1とは打って変って先程までのノイズをすっきりと削ぎ落とし浄化されたミニマルなビートに様々な表情の上モノで味付けを施した、4枚の中でも最も“テクノ”らしい作品である。
テクノらしい、とはいっても4つ打ちのビートは確かに存在するがダンスフロアの煌びやかな祝祭空間とはとてつもなくかけ離れた、内に篭ったような掴み所のない陰鬱でアブストラクトなサウンドが大半を占め退廃的な空気に拍車を掛けるようなトラックが多い。そんな中で唯一#1では浮遊感を伴った虹色の結晶を思わせるようなキラキラとしたピュアな電子音が印象的で、それらが入ることによってかつての冷淡で無機質な彼らのサウンドよりも遥かに表情豊かなものに変わったと感じられる。
それぞれのアルバムに於ける収録曲の後半は次のアルバムへと続く潤滑油のような幾分フラットな楽曲展開になっており、このDisc2の後半では比較的緩やかな重心低めのビートに抑揚を極端なまでに抑えたPan Sonicらしいダークアンビエント・トラックで一先ずDisc2の幕は閉じられる。
(残るDisc3&Disc4はまた次回.... 記事はこちら)
Kesto(Disc3 & Disc4)
... 2007.05.13.[Sun]

■Artist : Pan Sonic
■Title : Kesto(Disc3&Disc4)
■Label : Mute Records
■Release : 2004
■Sample : ♪
Pan Sonicによる2004年にリリースされた4枚組、収録時間234分という想像を絶するヴォリュームの6thアルバム『Kesto』。(Dsic1とDisc2を紹介した記事はこちら)
Disc1がカオスティックなノイズ、Disc2がアブストラクトな音響テクノときて続く3枚目、Disc3である。
振動するような微かなドローンが数秒続いた後にいきなりトイレの水を流すような音が聴こえる。タイトルは“Viemärimaailma(Sewageworld)”。つまり“下水(=Sewage)の世界”といった所だろうか。フィールドレコーディングしたと思しき何とも聴き取り辛い持続音が所々で反響しノンビートのままおよそ10分に渡って展開されていく。これらの事からおおよその察しがつくと思うがこの3枚目では非常に実験的な音響作品が収録されている。#2“Käytävä”では静から動へ、そして動から静へというサイクルが緩やかなドローンとしてノイジーなサウンドを伴って時に目まぐるしく変化していくスリリングなトラックで緊張の糸が再びピンと張りつめる。その後は時折激しいノイズも織り交ぜながら中盤以降、静謐な微音が展開されていきラストは幾つかの信号音が現れては消え、静かに交錯しそして拡散するというもはや”音楽”という形はこの信号音と共に遥か彼方へ拡散したようなエクスペリメンタルな電子音が一切の感情や意図を感じさせる事なく静かに放たれる。
最後のDisc4には“Säteily(Radiation)”つまり“放射線”と題された61分にも及ぶ1曲のみが収録されている。ここではDisc3のラスト#8“Linjat(Lines)”で聴く事の出来た信号音によって放たれたか細いラインがやがて1つの大きな大河となって緩やかな変化を繰り返しながら61分という時間の中で壮大なるスケールのドローンとして展開されていく。だがここでも音に一切の感情の起伏は感じられない。在るのは只ただ照射を続ける放射線の揺らめきを思わせるような“音”だけである。そしてその先には絶対零度の宇宙空間に只一人漂流しているかのような極低音の寒く美しくそして孤独な世界が広がっているのである。
これら4枚、およそ234分にも及ぶ巨大なサウンドの欠片はまさしくPan Sonicとしての一つの到達点でもあり様々なサウンドを内包した彼らの集大成とも言えるような作品である。力や持続を意味するという『Kesto』というアルバムタイトルも彼らの一つの集大成を表すに相応しい言葉である。
そしてその集大成でもある『Kesto』からおよそ3年の歳月を経た2007年の5月、Pan Sonicの二人による新しいアルバム『Katodivaihe/Cathodephrase』がリリースされるのである。








