Harmony In Ultraviolet
... 2006.11.18.[Sat]

■Artist : Tim Hecker
■Title : Harmony In Ultraviolet
■Label : Kranky
■Release : 2006
■Sample : ♪

過去にMille Plateaux、Mort Aux Vaches(ex-Staalplaat)、Alien 8などから秀逸なアンビエント/ノイズ作品をリリースしてきたカナダはモントリオールを拠点に活動するサウンド・アーティスト、Tim Hecker。今年の夏にはクリック/ミニマルなサウンドをメインとした彼のサイド・プロジェクトであるJetoneの作品が新興レーベルApneaよりリリースされ一部で話題になっていたが本作は彼の本人名義による最新作である。リリースはアメリカ・インディー界の老舗レーベル、Krankyより。
まず言っておこう。本作『Harmony In Ultraviolet』はかつて傑作と称された彼の1stアルバム『Haunt Me,Haunt Me Do It Again』(→過去記事)に勝るとも劣らない素晴らしい作品である。
それは“紫外線のハーモニー”というタイトルが示す通り光の放射を思わせるスペクトル・サウンドが幾重にも連なり奏でられた、まるで美しいハーモニーの結晶体であるかのようだ。
次々と現れては消えてゆく砂塵のように舞い散る微細で硬質なデジタル・ノイズ群、かつてないほど重層的な響きを持ち吹き荒ぶ風のように覆い被さるドローン、そしてそれらの隙間から零れ落ちるように溢れ出た天上的に美しく流麗なメロディー、それらのアンサンブルが「静」と「動」という展開の中で非常に壮大なスケール感と彼方へと拡がり行くような奥深いシンフォニーを奏でている。
中でも比較的穏やかな#8〜#11の“Harmony In Blue”と題された4部構成の組曲から、激情のフィードバックノイズが迸る#12“Radio Spiricom”への展開はアルバム中のハイライトとも言えよう。
今作でもやはり彼の得意とするノイジーなアンビエントサウンドを基調としているが以前よりもメロディアスな要素が多く非常に昂揚感に満ちたドラマティックな展開を感じる事が出来る。
アルバム冒頭を飾る“Rainbow Blood”で幕を開け、やがてラストを締めくくる“Blood Rainbow”で静かに幕は下ろされる。しかしアルバムは決して終わることなく音は其処に響き続けるだろう。
Les Fleurs
... 2006.11.11.[Sat]

■Artist : Marsen Jules
■Title : Les Fleurs
■Label : City Centre Offices
■Release : 2006
■Sample : ♪

ドイツはドルトムント出身、工業都市として知られるこの街で生まれ育ったMartin Juhlsの作る音楽はまるで自然界の織り成す一遍のドラマのように美しく、そして儚い。
2005年にMarsen Jules名義としてリリースされた1stフルアルバム『Herbstlaub』では、まるで移り行く四季の変化を綴ったかのような流麗なサウンドスケープが特徴の素晴らしい作品だったが、続く2006年、新たに2ndアルバム『Les Fleurs』を1stアルバム同様、ドイツはCCOよりリリースした。
『Les Fleurs』=“花”を意味する今作は、タイトルが示す通り“花”をモティーフとした淡い色合いのジャケット・アートワークが非常に美しくまた洗練されたイメージを感じさせるものとなっている。
前作のアートワークにも薄っすらと花が描かれていた事もあって否応なく関連性やストーリー性を想像させるが、サウンド自体は前作に比べ幾分シンプルになったような印象を受ける。
壮大なシンセを間断なく敷き詰め、慎ましやかなストリングスの音色を多用した前作のドローニッシュなサウンドとは一転し、今作は非常に深くゆったりとした音の間とアンビエンスを意識したサウンドではないだろうか。アコースティック・ギターの繊細な音色が細波のようにゆっくりと寄せては返しハープの甘く麗しい旋律が深く陰るリヴァーブの中艶やかに響き渡る。そして緩やかな風を纏ったデジタルノイズが吹き渡り空間を深く濃い霞で埋め尽くしてゆく。
定まったメロディーを持たずに常にゆらゆらと漂流しているように奏でられる音色は瞬間瞬間で常に移り変わり決して同じ表情を見せる事のない自然界の現象の如く、朧げであり、またそれが作品のテーマであるかと云わんばかりにアルバム1枚を通して展開される。
今作に於いても自然の事象を感じさせる壮大な世界観を繊細な音色で美しく丁寧に綴り上げたMarsen Julesという才能に只ただ聴き惚れるしかないだろう。
Wide
... 2006.11.05.[Sun]

■Artist : Grouper
■Title : Wide
■Label : Free Porcupine Society
■Release : 2006
■Sample : ♪
アメリカはオークランド出身の女性ノイジシャン、liz harrisによるソロプロジェクトGrouperによる2ndフルアルバム『Wide』。リリース元のFree Porcupine Societyは元Deerhoof、現在は7 Year Rabbit Cycleというユニットで活動を続けるRob Fiskが2002年にアラスカ州で立ち上げ、エクスペリメンタル/アヴァンギャルドなサウンド・アーティストの作品を幾つかリリースしているレーベルである。
本作は所謂ドローン/アンビエントの部類に入るサウンドであるのだが特徴的なのは彼女自身の歌声が全編に渡って展開されているという点である。歌声と言ってもこの作品で聴けるそれはあくまで“音”の一つとして抽出・加工されたものでありこの作品においては最も効果的で最も印象的な役割を果たしている。それらは時に救い難いほどの沈み込んだ歌声であり、また時に優しく囁きかけるような歌声なのだが、それらに共通するのは余りにも美しくこの世のものとは思えない程の幽玄なる響きを持っているという所である。
幾重にもディレイの掛かったギターの音色はさながらシタールのような妖艶な響きを放ち、透き通るような透明感に溢れた彼女の歌声は水中に漂っているような不思議な漂流感と浮遊感に満ちている。
壮大なベールでオーロラのようにゆっくりとたゆたうドローンは優雅でありながら不穏な空気が感じられ、非常にシャーマニックでふつふつと覚醒感の沸いてくるようなサウンドでありながら厳粛で崇高な空気が支配するサウンドとなっている。
アルバムを通してモノクロームに覆われた世界が拡がっていくのだが決してダウナー一辺倒ではなく寂光が差し込み天上に静かに召されるような、宗教音楽にも似たそんな幸福感すら感じられる。
因みにジャケット・アートワークのモノクロ写真を撮ったのはPeter Harris。 彼女の夫だろうか?
非常に美しく寂静感漂うこのフォトグラフが彼女の孤高のサウンドをより一層引き立てている。
Eingya
... 2006.11.05.[Sun]

■Artist : Helios
■Title : Eingya
■Label : Type
■Release : 2006
■Sample : ♪

前作『Unomia』から2年、間にGoldmund名義、そしてユニットであるSonoでのリリースを挟んで米ボストンで活動するマルチ・プレイヤーKeith KenniffによるメインソロプロジェクトHeliosの2ndアルバムが6月にTypeよりリリースされた。マスタリングでは同じくTypeから作品をリリースしているMokiraことAndreas Tillianderが携わっている。
Merckよりリリースされた1stアルバム『Unomia』(→過去記事)では内向的で非常にナイーブながら繊細な美しさを持ったサウンドを聴かせてくれたHelios。今作に於いてもその繊細な音のタッチは変わらず、加えてメロディーはよりはっきりとした輪郭を持って浮かび上がりメランコリックでいてドリーミーに、白日夢的世界にプラスして非常に感傷的なサウンドとなっている。
あくまで控え目に打ち付けるドラムラインはアクセントとして曲を引き締め、スケール感の高い美麗なレイヤード・シンセがドラマティックな展開を徐々に演出していく。
そしてアルバム全編に渡って美しくも儚げな旋律を奏でるアコーステック・ギターの音色が切ない哀愁を誘う非常に情感溢れる作品である。他にもピアノなどの生楽器にフィールドレコーディングも取り入れ、前作以上にオーガニックな質感のサウンドに仕上がっていると言えるだろう。
少し日本のアニメを彷彿とさせるようなMatthew Woodsonによるアルバムジャケットのアートワークも意外な驚きと共にアルバムの世界観に独自のアクセントを加えている。
誰かに寄り添ってただ只静かに景色を臨むように穏やかな気持ちで音楽に耳を傾けたい、これはそんな気分にさせてくれる作品なのかもしれない。








