Orbus Terrarum

The Orb-Orbus Terrarum
   ■Artist : The Orb
   ■Title : Orbus Terrarum
   ■Label : Island Records
   ■Release : 1995
   ■Sample :
   myspace.com


近頃再びAlex Patersonの周辺が騒がしい。
昨年にKompaktからリリースされたThe Orbとして通算8枚目となるアルバム『Okie Dokie It's The Orb On Kompakt(→過去記事)』は間違いなくThe Orbの復活を告げる作品であり、つい先日にはかつての盟友KLFのJimmy Cauty等とのユニットTransit Kingsとしてアルバムをリリース、更には1stアルバム『Adventures Beyond The Ultraworld』の再発、そして現在進行形で幾つかのリリースが控えていたりと『Okie Dokie〜』以来、アレパタの周辺が再び賑わいを見せている。
因みに先月発売されたremix誌の9月号では彼の茶目っ気たっぷりなロングインタビューが掲載されているのでファンの方や未読の方は是非。

1995年にリリースされた今作『Orbus Terrarum』はそのインタビューでもアレックス自身が自らのキャリアの中でも最もフェイヴァリットな作品として公言しているアルバムである。
このアルバムではいつものナンセンスなユーモアに溢れたOrb節はやや控え目だが、それ以上に深遠でいて謎めいた、そしてThe Orb諸作の中でも取り分け快楽至高の強い作品となっている。
アンビエント、トライバル、ダブ、ドローン、コラージュ、サンプリング、喧騒、混乱、静寂、酩酊、神秘、とありとあらゆる覚醒的な物質を放り込み煮込んだような非常に濃度の高い作品だといえよう。
ジャケットは古地図をモティーフとしており、さながらOrbと辿る冒険旅行といったところだろうか。

冒頭、#1、#2は“渓谷”“高原”と題されている通りゆったりとしたリズムの中から悠壮な風景が次第に滲み出てくるような非常にスケール感の高いアンビエントで幕を開け、これから始まる77分に及ぶ旅の操舵者であるAlex Patersonが「準備はいいかい?さぁ、旅に出よう」と語りかけてくる。
2曲でおよそ20分にも及ぶイントロダクションが明けて突如として眼前が開けて現れるピアノによる夜想曲“Oxbow Lakes”。神秘的なシンセサイザーの音色と共にスリリングなメロディーが特徴の何とも妖艶で幻想的な曲である。そして#5では大胆なリズムセクションにソリッドなビートが刻み、後半から現れる澄み渡った水面のように透明度の高いメロディーが非常に美しい曲である。

アルバムのラストを飾る“Slug Dub”(=ナメクジ ダブ)と題された楽曲は男女のセリフのサンプリングに奇妙な薄ら笑いがこだましズッシリとしたダイナミックなドラムに地を這いずり回るようなベースラインが特徴のOrb流のルーツ色の濃いダブに仕上がっている。とは言うもののラストにきて「あれ?今までの幻想的な旅は何だったの?」と思わせる展開は彼なりの悪趣味なジョークだろうか。
収録曲には相変わらず10分を優に越える長尺な曲が多く、余りある時間の中で幾多の展開を経てコラージュされた楽曲はまるで時を追うごとに移り変わる景色を見せられているようで、1曲ごとの中でも様々な印象を与える要素を盛り込んだ作品となっている。


Far Away Trains Passing By

Ulrich Schnauss-Far Away Trains Passing By
   ■Artist : Ulrich Schnauss
   ■Title : Far Away Trains Passing By
   ■Label : Domino USA
   ■Release : 2005(Re-issue)
   ■Sample :
   myspace.com


Ulrich Schnaussといえば2003年にリリースされた2ndアルバム『A Strangely Isolated Place』が後に雨後の竹の如く現れるエレクトロニカ×シューゲイズ・サウンドの立脚点ともなるべきアルバムとして余りに有名であるが、長らく廃盤だった2001年リリースの1stアルバムが4年の歳月を経て昨年末ようやく再発される事となった。なお再発盤はボーナス・ディスク付きの2枚組となっている。

丁寧に刻み付ける硬いビートにアナログ・シンセによる丸みを帯びた暖かいメロディーが非常に印象的な作品で、それらのサウンドからは同じくアナログ・シンセを多用しローファイで歪んだサイケデリアを展開するBoards Of Canadaを想起させられる。このローファイな質感は独特のザラつきを生み出しアルバム全体にハレーションがかかったような印象を与えている。
しかし彼の場合はBOCの屈折した光のような歪みや浮世離れしたサイケデリックな印象とは少し違い、穏やかで素直に情感揺さぶる至福のメロディーが特徴の非常にロマンティックな作品である。
幾重にも重なったシンセによる、まるで陽の光を連れ立って降りそそぐかのような眩いメロディーは暖かな包容力に溢れ、ジャケットに描かれているように水平線をただ静かに臨んでいるかのような平穏な空気が流れている。

―この1stアルバムは世に多く存在するであろう幾多の素晴らしいデビュー作品と同様、Ulrich Schnaussの芳醇な感性と共にブリリアントな才能が発揮された傑作アルバムと言えるだろう。
まるで陽光に包まれるが如くドリーミーで甘美な楽曲たちは今もって決して色褪せる事はない。


Linear Cryptics

Ametsub-Linear Cryptics
   ■Artist : Ametsub
   ■Title : Linear Cryptics
   ■Label : PROGRESSIVE FOrM
   ■Release : 2006
   ■Sample :
   myspace.com


2000年の設立以来、コンスタントに作品をリリースし今や日本を代表するエレクトロニック・ミュージックレーベルとなったPROGRESSIVE FOrM。本レーベルからおよそ2年ぶりに届けられたアルバムはAmetsubという若干23歳の日本人アーティストによるデビュー作『Linear Cryptics』である。
因みにジャケットの美しいアートワークも彼の手によるもので自身の主宰するレーベルDrizzlecatを中心にDJやデザインなど幅広い活動も行なっている。

「Ametsub」という名前、おそらく日本語の「雨粒」からきているのだろうか。
躍動感に満ちたグリッチ・ビートが小刻みに跳ねるマイクロスコピック・ファンクにピアノによる情感揺さぶる流麗なメロディー、決して押し付けがましくなくスルりと懐に入り込んでくるような愛らしい一面も感じられる、「Ametsub(雨粒)」という名の示す通り瑞々しく清涼感に溢れる日本人らしい繊細な美しさと深い情緒を感じさせる作品となっている。

緩急の効いた緻密なビート・プログラミングは繊細なだけではなく非常にダイナミックでありグルーヴィー、#6で聴ける細かく弾けるリズムに美しいメロディーはToytronicレーベルからの諸作を連想させるようで、ロウビットのチープでキッチュな音色は絶妙なポップ感覚も持ち合わせている。
そして続く後半では特にノスタルジックな感覚を誘うような美しく切ない展開となっている。中でも#8以降はアルバム中でも取り分け感傷的でメロディアスな楽曲が揃い、まるで夏の一時の瞬間を捉えたかのような淡い色彩で染め上げられた美しい楽曲によってアルバムは締めくくられる。


Coastal Access

Adrien 75 - Coastal Access
   ■Artist : Adrien 75
   ■Title : Coastal Access
   ■Label : Source Records
   ■Release : 2002
   ■Sample :
   myspace.com


Move D主宰、アンビエントを中心にミニマルテクノ/ハウスからダウンテンポ、更には実験色の強いエクスペリメンタルな音響作品までを幅広くリリースしている独・Source Recordsより757名義でも活動しているAdrien CapozziによるAdrien 75名義での1stフルアルバム『Coastal Access』。

硬いリズムに柔らかなメロディーが特徴のIDM、アコギの音色を生かしたオーガニックなアンビエント、大海のうねりを思わせるドローン、突き刺さるように押し迫るアブストラクトなノイズなど様々なスタイルの楽曲を聴く事ができるがそのどれもが浮遊感に富んだアトモスフェリックな音像を携えており不思議と統一感に溢れたアルバムとなっている。
中でも残響音を伴い、まるで霞の中で響いているようなギターの音色がとても印象的だ。インタールード的に挿入される#5や#7は静かに爪弾かれたギターのメランコリックな音色と微弱なノイズが絡み合い非常に優美で穏やかな、まるでそこだけは特別な時間の流れが存在するかのような静謐なアンビエント作品である。

タイトルには海や水を意識したものが多いが特に#10“Moonlit Waters”は静かなギターリフで幕を開けディレイの効いたシンセサイザーが幾重にも重なりまさに水中を漂うかのような浮遊感と揺らぎに満ちた心地よい1曲となっている。その他にもアコギを取り入れた楽曲は数曲あるがギターの控え目で穏やかなメロディーと細やかな電子音がうまく融け合った秀作が揃っている。


Flanged Scenery

Washida-Flanged Scenery
   ■Artist : Washida
   ■Title : Flanged Scenery
   ■Label : Chillscape
   ■Release : 2001
   ■Sample : −




千葉県在住の日本人アーティストTatsuaki Washidaによる1stアルバム『Flanged Scenery』。
リリースは、近年ではIntelligent Jazz名義として積極的にジャズへのアプローチを試みる作品を制作し、日本でのアンビエント・シーン黎明期よりDJ/アーティストとして活動してきた日本を代表するアンビエント・クリエーターKay Nakayama主宰のChillscapeより。

小刻みに震えるビート、浮遊感に富んだシンプルなメロディー、水々しい音響処理、と言葉で表せばまことに単純だがWashidaはこの作品で90年代アンビエント・テクノ黄金時代の素晴らしい空気を感じさせるような多幸感に溢れた幻想的でドリーミーな音を再現している。耳障り滑らかなブレイク・ビーツはタイトで小気味良く曲中を疾走し清澄で透明度の高いメロディーはキラキラと輝く音の粒子が舞っているかのよう。
中でも#6“Floatationers”はアルバム中でも最も暖かく優しい空気に満ちた至極のアンビエント・チューンだろう。シャッフルされた不規則で太いリズムのダウンテンポに適度にポップさを兼ね備えたヒプノティックなメロディーが絡み合い足元からフワりと浮き上がってしまいそうな不思議な浮遊感に溢れた夢見心地の展開となっている。

最近のアンビエント作品で聴けるようなスマートで小奇麗な印象とは少し趣が異なるかもしれないがシンプルながら適度なギミックとユーモアに溢れ、飽きのこない構成と程よい快楽性を伴った非常に楽天的な、正にかつてのアンビエント・テクノが持っていた空気を継承するような作品と言えるだろう。
何よりもアルバムに漂うミスティックなヴァイブレーションがこの作品をより良いものとしている。


Night Of The Ankou

The North Sea & Rameses III -Night Of The Ankou
   ■Artist : The North Sea & Rameses III
   ■Title : Night Of The Ankou
   ■Label : Type Records
   ■Release : 2006
   ■Sample :




UKはType RecordsよりHeliosの2ndアルバムの陰でひっそりとリリースされた感のあるThe North Sea & Rameses IIIという二つのユニットによるコラボレーション・アルバム。
The North SeaはDigitalisレーベルのオーナーでもあるBrad Roseによるソロ・プロジェクト、もう一方のRameses IIIは主にサイケデリックなアンビエント作品をリリースしてきたDaniel Freemanを中心としたロンドン在住、3人組のユニット。全3曲、内1曲はTypeのレーベル・オーナーでもあるXelaによるRemixを収録したものとなっている。因みにマスタリングにはMokira名義でもお馴染みのAndreas Tillianderが携わっている。

まずアルバム冒頭の#1は民族楽器の様々な音色を取り込みそれらをシンセサイザーの穏やかで悠大なるベールで包み込んだエキゾティックなアンビエント・ドローン。アジアの民族楽器や梵音具を思わせる多分に湿度を含んだ音色と緩やかに変化していくドローンがより瞑想的な空気を生み出し、まるで宗教音楽を思わせるかのような壮厳さと気高さを併せ持った異色の作品となっている。
続く#2ではアコギの音色を中心にそえたメロディアスで柔らかな印象のドローン。#1の個性的で灰汁の強いサウンドに比べるとやや薄味ではあるがバックに流れるキラキラとしたエレクトリックな音と徐々に厚みを増していくドローンがドラマティックに絡み合う楽曲となっている。

そしてラスト、“Return Of The Ankou” Xela Remixは原曲“Death Of 〜 ”の悠壮な空気を残しつつXelaらしいガチャガチャとしたトイ・ライクな効果音に時折掻き鳴らされるギターの物憂げな響きがまるでスローモーションの映像を見ているかのような穏やかでセンシティブなRemixとなっている。
#1、#2いずれも15分超という長尺のドローン作品で際立つ派手さは無いが#1で聴く事の出来るようなギラついた覚醒感の漂う個性的なドローン作品がTypeからリリースされた事を考えるとまさに異色と言えるだろう。これは一聴の価値あり。