Talk Amongst The Trees

TalkAmongstTheTrees
   ■Artist : Eluvium
   ■Title : Talk Amongst The Trees
   ■Label : Temporary Residence
   ■Release : 2005
   ■Sample :
   myspace.com


前作「An Accidental Memory in the Case of Death」(→ブログ内記事)に於いてピアノのみで演奏された非常に美しくも慎ましい作品をリリースしたMatthew Cooperによるソロ・プロジェクトEluviumの昨年リリースされた3rdアルバム。
前作から強く感じられたのは正に人間性そのものであり非常に感傷的な作品のような印象を受けたが今作ではそういう感覚すら超越し、もはや神懸り的に素晴らしい楽曲をこのアルバムで披露している。

彼の創り出す音は完全にこの世の重力からは解放されているのだ。

音の一つ一つが驚くほどの浮遊感をもって宙に舞い上がるように漂っている。
シンセサイザーが生み出した持続音による低音の波は幾重にも重なりながら決して地上を這いまわることなく緩やかな上昇気流に乗ってそのまま天空に駆け上がっていくような錯覚さえ起こさせる。

冒頭#1では10分にも渡る長大な曲となっているが、シンプルだが非常に美しいメロディーの中をギターによるフィードバック・ノイズと蠢くようなドローンが折り重なり正に圧巻の一言である。
そして#6では宗教音楽にも似た壮厳で伸びやかなストリングスのミニマルな反復が徐々に高揚感を煽るドラマティックな展開で最後にはまるで全てから解き放たれたようなカタルシスティックな感覚が訪れる。

アルバムを通して神聖で非常に厳かな空気に満ちている。しかしそこにあるのは緊張感ではなくむしろ安らぎである。それは眠りにつく前の安らぎであり、人生を静かに終えた時の幸せな安らぎなのかもしれない。
彼が3枚目の作品で見せた世界は現世の音楽ではなくまさに幽世に響き渡る音楽なのだ。


Lappi Inzoo

kylian
   ■Artist : Kylian
   ■Title : Lappi Inzoo
   ■Label : Toytronic
   ■Release : 2004
   ■Sample :




フィンランド人アーティスト、Kylian(a.k.a Kyösti Ylikulju)のToytronicからリリースされたRoger That Jr(どうやら同郷のアーティストらしい)によるRemixを含む4曲入りのデビューEP。
直球の王道的Toytronic路線のサウンド。
古き良きクラシカルなIDMサウンドを機軸に遊び心溢れるポップなものからシリアスなアンビエンスものまで不思議とそのレーベル色に染めてしまうToytronicらしい作品である。

破綻寸前のブレイク・ビーツにウォーミーなメロディー、ロー・ビットな音色使いが特徴的・・・
何とも変わり映えしないといえばそれまでだがこれらのサウンドが好きなファンにはそんな事関係なしの好盤である(ちと強引?)。

この人の場合#1のように美麗で切ないメロディーが非常に印象的でどちらかというと#2のようなスロウなビートに暗い上モノのアンビエントなトラックよりも愛らしいメロディーに疾走感溢れるビートを前面に押し出した曲調の方が個人的には好み。
#3では再び#1での印象的で切ないメロディーを用いながらも更に透明感の溢れるメロディーを被せてストロング・スタイルのハチャメチャでグルーヴィーなリズムを掛け合わせる所には思わず唸ってしまう。
#4のLappi InzooのRoger That Jr. Remixに関しては原曲引き裂き系のズタボロ・エディットを施している。が、んー何ともコメントしずらい出来・・・・・

4曲入りEPという事で収録時間が短い為、是非ともフル・アルバムを期待したいアーティスト。


Principles Of Geometry

principles of geometry
   ■Artist : Principles Of Geometry
   ■Tltle : Principles Of Geometry
   ■Label : Tigersushi
   ■Release : 2005
   ■Sample :
   myspace.com


「幾何学の原理」を意味するPrinciples Of Geometryというユニットはフランス人アーティスト、Guillaume GrossoとJeremy Duvalにより結成された。
本作品はタイトルに自らのユニット名を冠した1stアルバムである。

アープやアナログ・シンセを始めとしたヴィンテージ機材によって生み出されたローファイで暖かく深みのあるサウンドは自身もフェイヴァリットに挙げるBoards Of Canada直系のサウンドとも言える。
ビートは硬質、メロディーはシンプルに美しくループするシンセサイザーの重厚な響きは研ぎ澄まされたドラムラインに柔らかくしなやかな光を当てる。

手法やアプローチ自体は実にオーソドックスではある。
しかしながら決して急ぐことなく着実に聴く者の意識に深く響くだけの力を持った音楽である。
それらのサウンドはまるで幾重にも織り込まれた繊細で緻密で色彩豊かな装飾文様のように複雑に絡み合い、緩やかなまどろみの中のサイケデリックスを生み出す。

そして失ってしまったものがまだここには在る。
Principles Of Geometryのサウンドには超自然的なものに対する神秘が未だ宿っている。
(そういう点においてもBoards Of Canadaは同系列のアーティストであろう)

古のヴィジョンを想起させ新たな未来を予見させるアーティスト、
それがPrinciples Of Geometryではないだろうか。


Parking Lot Music

e*vax
   ■Artist : E*Vax
   ■Title : Parking Lot Music
   ■Label : Audio Dregs
   ■Release : 2001
   ■Sample :




Evan Mastの代表的名義E*Vaxによる現在の所唯一のアルバム「Parking Lot Music」、リリースは兄でもありまた自身もアーティストであるE*Rockの主宰するAudio Dregsから。
彼の作り出すサウンドはまるで丸みを帯びた音の粒子一つ一つが軽快なステップを踏んでいるようにポップであり、また素朴な優しさに彩られている。

有機的なメロディーと水彩画のように淡いそのサウンドはまるで小鳥がハミングしているかのような可愛らしさと朝の清廉として透き通った空気を感じさせ晴れやかな気分にさせてくれる。
そして伸びやかで流れるような電子音のハーモニックな波の中をグリッチのプチプチ、ザワザワとしたリズムが波間に漂う気泡のように浮かんでは消えて行く。
このアーティストの持ち味の1つにメロディー・センスがあると思うが、ウォーミーで人肌を感じさせる温もりの中に僅かながら切なさが感じられるのが何とも印象的だ。

中には家庭用品から出された音をサンプリング・加工して使用しているトラックもあるようだがそういった実験的要素を感じさせない程にポップで親しみやすさを兼ね備えている。

全編に渡って牧歌的な空気感に満ち溢れた夢見心地の柔らかい1枚。


Six Month At Outside Stairs

O.N.O
   ■Artist : O.N.O
   ■Title : Six Month At Outside Stairs
   ■Label : Tha Blue Herb Recordings
   ■Release : 2003
   ■Sample :




Tha Blue Herbの2ndアルバム「Sell Our Soul」において前作よりも更に飛躍的に進化/深化したサウンドを聴かせてくれたTha Blue Herbのトラック・メイカーO.N.O
そんな彼の1stソロアルバム「Six Month At Outside Stairs」はまるで煙たい空気の渦がとぐろを巻きながら地中へ深く沈み込むような、重々しくまた力強い作品である。

サウンドの節々から香るオリエンタルな空気、くすんだフィルター越しから響いてくる土着的な民族楽器のリズム、ポリリズミックに脈打つ不穏なドラム、イレギュラーに打ち付ける破天荒で重々しいブレイク・ビーツ、予定調和を掻い潜るように表れては消えて行くメロディ。
それらが生ぬるい空気を切り裂き、激しく叩き付けるように鳴り響きダーティなグルーヴを生み出している。
そしてここからは濃緑のウィードの煙と共に地上に巻き上げられた茶褐色の土煙が咳き込むほどに充満しているのだ。

このアルバムの音楽は決して洗練されたものではない。
煌くような派手さも無ければ感傷に浸るような瞬間すら与えてはくれない。
がしかしここにはそんなものを軽く一蹴してしまうような荒々しさと強さが確かに存在している。
その強さがとてつもなく魅力的でこのサウンドに更に鋼の衣を纏わせるているのだ。

極北からの熱波はこのアルバムで貴方の耳をきっと焦がす事だろう。


One/Three

dabrye
   ■Artist : Dabrye
   ■Title : One/Three
   ■Label : Ghostly International
   ■Release : 2001
   ■Sample :




Prefuse73をはじめとするHip Hop×Electronicaサウンドの急先鋒の一人、DabryeことTadd MullinixによるGhostly Internationalよりリリースされた1stアルバム。

ミニマル・テクノや近年のミニマル・ハウスに於ける「引き算の美学」をDabryeはこのアルバムではヒップホップというフォーマットに於いてクリックやグリッチを始めとするエレクトリックな音使いを用いて実践している。
ミニマルなリズムにスカスカな音の間から生み出す独自のスロウ・グルーブが絶妙なさじ加減で緊張感を生み出す。そして#1に使用されているようなテナー・サックスを始めとした生音が生み出す甘くメロウな旋律、そこへ柔らかく浮遊感に富んだ上モノが組み合わさって緊張感を解すように心地よい音響空間を繰り広げ陶酔感に満ちたサウンドを展開してゆく。

Dabryeのサウンドに於いて特筆すべきはその「匂い」である。音使いや感触は現代的なエレクトロニカ・サウンドなのだが、そこからする「匂い」は紛れもなくヒップホップの持っていたそれである。特にドラムの打ち方やサンプル・ループなどの手法は特徴的で90年代ヒップホップやブレイク・ビーツを聴いてきた人間にとっては懐かしい匂いのする、しかし新しいサウンドではないだろうか。

特にさぁ、#9「So Scientific」なんて21世紀型G-Funkって感じじゃない?
(多分違うと思うけど・・・・w)


Symbol

Symbol
   ■Artist : Susumu Yokota
   ■Title : Symbol
   ■Label : Skintone
   ■Release : 2004
   ■Sample :
   myspace.com


ジャンルの垣根を飛び越えて感性溢れる音楽をクリエイトし続けるアーティスト、横田進。非常に多作なアーティストでありながら作品毎に様々なスタイルを模索し、1つの作品として昇華させる事の出来る真の意味でのアーティストと言えるであろう。
2004年、自身のSkintoneからリリースされた本作「Symbol」はそんな彼の音楽的渇望が古典的な音楽、クラシックと見事に融け合う事によって完成された意欲作にしてまことの傑作である。
クラシックや伝統的音楽を現代の楽曲に取り込むという手法に関してはもはや使い古されたイメージがあったのだが本作はそんなものを難なく払拭させる事の出来得る実に“音楽的”で素晴らしい作品に仕上がっている。

壮厳にして重厚なオーケストレーションは実に格調高く、華麗に鼓舞するストリングスは聴く者に装飾的で華やかしり頃の古き時代への憧憬にも似た想いを抱かせる。
そこへきめ細やかで軽妙とも取れる横田の刻むビート・アレンジが見事に融合し、まるで西洋絵画に描かれた天使が軽やかに宙を舞い祝福の笛を鳴らしているかのようだ。

おそらくこの作品では中世西洋の持つ何処となく退廃的な部分は意識的に排除しているのではないだろうか。
そのせいか(語弊があるかもしれないが)極めてポップな印象がこの作品からは感じられるのである。
更には時に神秘的でミステリアスに、また時に妖艶でエロティックに西洋古典音楽に味付けを施し新たな息吹を感じさせる楽曲に作り上げている。
横田は現代的なエッセンスを持ってこの古典音楽に全く新たな歴史を刻んだのだ。

<追記>
こちらのブログで本アルバムに使用されているクラシックの楽曲がいくつか明記してあります。


Lagrange Point

Posthuman
   ■Artist : Posthuman
   ■Title : Lagrange Point
   ■Label : Seed Records
   ■Release : 2003
   ■Sample :
   myspace.com


過去にSkamからも作品をリリースしているRich BenanとJosh Dohertyによるユニット、Posthumanの2ndアルバムは自身の主宰するSeed Recordsから。

重低音のブレイク・ビーツ×インダストリアルな作風が得意のユニットだが本作では伝統的なIDMスタイルを踏襲しながらもメロディアスな要素を取り入れ、より映像的で更なる深い世界観を感じる事が出来る作品になったと言えるだろう。

リズムに関しては相変わらず手が細かく工場から抽出したかのような金属的でズシリと重いサウンドがスリリングに展開し不穏な空気により拍車をかけ、まるで真夜中の廃墟となった建物に迷い込んでしまったかのような不安感と孤独感が入り混じった極めて陰鬱な世界を作り上げている。
その中でピアノやストリングスを従えたメロディーが時折顔を覗かせ抑揚の効いたビートラインの中を静かに響き渡る様がより一層もの悲しく聞こえるのである。
意外なところでは8bitサウンドにスロウなブレイク・ビーツを掛け合わせた#9がアルバム中で独特の雰囲気を醸しだしアクセントとなっていて印象深い。

Boards Of Canadaも引き合いに出されているようだが彼らよりもリズムはより強靭で更に鬱蒼としたダウナー・サウンドを展開しているのでBoards Of Canada好きは勿論のこと、Bolaや初期のAutechreのサウンドのファンにもオススメ出来る内容となっている。
70分を越える大作だが一貫した世界観とサウンドによる幽なる次元に是非埋もれていただきたい。


Living Vicariously Through Burnt Bread

Twerk
   ■Artist : Twerk
   ■Title : Living Vicariously Through Burnt Bread
   ■Label : Mille Plateaux
   ■Release : 2003
   ■Sample :
   myspace.com


サンフランシスコ出身のアーティスト、Shawn HatfieldによるTwerk名義による3rdアルバム。Mille Plateauxからのリリースという事もありここのレーベル特有のテクノを下敷きにした凝った音響作品に仕上がっている。(因みに最近ではMerckのコンピ「Aurora 2」に本アルバムから「 from brown to green」が収録されていた)

表情を殆んど変えずに淡々と骨格的に打ち鳴らされるグリッチーなリズムとその隙間を縫うように入り込んでくるアブストラクトなノイズ、カットアップされたコラージュ音などが徐々に肉付けされて曲を構築していくのだがコロコロ、ゴニョゴニョとしたポップな音使いがモノトーンのトラックにカラフルな色を添える形となっている。
それに対し明確なメロディーというものは殆んど持たず空間系のドローンと流動的なシンセのベールが地面すれすれを漂いながら重くアンビエンスな空気を作り出し前者のカラフルな音使いの間でいつしか平衡感覚が奪われるような錯覚に陥る。

ラストも拍子抜けしたようなギターの音色が定まったコードを持たずに爪弾かれいきなりブツっと終わる。
最後まで全く持ってストレンジな音響テクノ作品。しかもジャケが怖いょ・・・


Rotten Cocktails

Boy Robot
   ■Artist : Boy Robot
   ■Title : Rotten Cocktails
   ■Label : City Centre Offices
   ■Release : 2005
   ■Sample :




一昨年City Centre OfficesからリリースされたHans MlerとMichael Zornによるユニット、Boy Robotによる2ndアルバムがこの「Rotten Cocktails」である。
「腐ったカクテル」と名付けられた何とも自虐めいたタイトルのアルバムだがアシッディなコードに透明感溢れる流麗なメロディー、クリスピーな4つ打ちビートを散りばめた心地良くも刺激的な1枚となっている。
ダンスフロアとチルルームの隙間を埋めるかのようなサウンド・アプローチになっており様々な展開と要素を含んだバラエティに富んだ内容のアルバムと言えるだろう。

ズシリと重たいボトム・ラインとハープシコードのようなギラついた響きを持った音色が何とも煙たい印象を与えるトラック#1で幕を開け、奥行きを感じさせる上モノに歪んだシンセ、タイトでミニマルなビートが何ともドラッギーな香りが漂う#5、多幸感と天上的な空気に満たされ宙を漂うかのような浮遊感を感じさせる#6、フリーキーな電子音が飛び交う中を一瞬聞こえてくる望郷のピアニカのメロディーが非常にエキゾチックな印象を与える#9でアルバムは締めくくられる。

アルバム1枚を通して、まるで霞の掛かったような空間処理に水面に浮き出る波紋の如く次々と表れる美しいメロディー、そこから感じられるのはピュアなIDMサウンドが持っていた懐かしくも新鮮な空気である。